資生堂は、ノルウェー科学技術大学との共同研究により、顔の立体形状に加えて、これまで分析が難しかった肌内部の散乱光を、非侵襲的にビジュアルや数値で総合的に計測・解析できる画期的な光学計測システムを開発した(図1)。
このシステムを使い、のべ1,000名以上の肌を計測し、肌の透明感に重要な内部散乱光を解析したところ、加齢によって内部散乱光が減少すること、また、内部散乱光にはメラニンや角層の状態など5つの要素が関連することが明らかになった。同研究の成果のうち、光学計測システムの開発については、論文誌「Journal of Imaging Science and Technology」へ投稿し、「Charles E. Ives Journal Award」を受賞している。また、同研究の成果の一部は、Optics & Photonics Japan 2022(2022/11/13-11/16)でも発表した。
同研究は、資生堂独自のR&D理念『DYNAMIC HARMONY』のScience/Creativityというアプローチで研究を進めている。肌の印象に強く影響を与える肌の見た目の「質感」は、主観的に評価される傾向にあるが、最先端の科学の力で「質感」を客観的・定量的に解き明かし、お客一人ひとりの「なりたい肌」の実現に向け、さらに研究を推進していく。
資生堂は、顔の印象に強く影響を与える、つや感や透明感などの肌の見た目の「質感」にいち早く着目し、光学的手法や心理物理学的手法を用いて研究を進めてきた。しかしながら、実際の人の肌の内外で様々な経路を辿る光を分離し、非侵襲的かつ立体形状と合わせて計測することは技術的な難易度が高く、これまで実現できていなかった。肌の質感変化とその要因について把握するために、肌の内外の光学的な情報を詳細に計測できるシステムの開発が望まれていた。
肌に光が当たると、その一部の光は肌の表面で反射し(表面反射光)、その他の光は皮膚の内部に侵入する(拡散反射光)。肌は半透明な性質を持つため、皮膚の内部で光が広がり、光が入った箇所とは離れた箇所から光(内部散乱光)が出ていく(図2)。これら表面での反射光や拡散反射光、内部散乱光は肌の質感にとって重要な役割を果たすが、とくに「透明感のある肌」にとって内部散乱光は重要であることが、同社の先行研究からも示されている。
今回同社は、画像工学分野で世界をリードするノルウェー科学技術大学との共同研究により、顔の立体形状とともに、表面反射光と拡散反射光を計測し、さらには肌内部に入った光である内部散乱光をより細かく分解できる世界初の光解析システムを開発することに成功し(図3)、今回、加齢によって起こる肌の質感変化の要因を検討した。
同研究では、これまで限られた面積のみで行われていた先行研究における計測を顔の肌全体へと拡張させ、さらに、20代から70代の、のべ1,000名以上の女性の肌を計測した結果、加齢によって肌の内部散乱光が減少することを発見した(図4)。加齢による肌の質感変化、特に透明感の変化には、肌の内部散乱光が関わっていると言える。
内部散乱光の計測と共に、肌を構成する様々な要素を測定。今回、それらの関連性を解析したところ、内部散乱光に影響を与えている肌の要素として、メラニン量、角層の状態、皮膚水分量、コラーゲンの状態、キメの状態の5つの要素が関連することが分かった(図5、図6、図7) 。
今回の研究では、実際の人の肌の内外で様々な経路を辿る光を非侵襲的に分離できる光学計測システムを開発した。お客一人ひとりが「なりたい肌」を実現し、自信を持って幸せを実感した毎日を過ごせるよう、同社は今後も最先端の技術開発を精力的に進める。