日経BP『「心」が分かるとモノが売れる』(税込1870円)〈著〉鹿毛康司(かげこうじ事務所代表)
長年の疑問が消えるような読後感だった。本著は2020年までエステーの宣伝部長を務めていた鹿毛康司さん独自のマーケティング手法について語ったものである。固い話ではない。著者が手がけた仕事を実例に、平易な言葉を選んだ口語体で、鹿毛流マーケティングの要諦である「心のコミュニケーション」について解説していく。読み終わる頃には、タイトルの「『心』が分かるとモノが売れる」の意味が腹に落ちる、実にうまい構成である。
長年の疑問とは何か。それはエステーの施策の数々がユニークであり、挑戦的であり続けることだ。大抵の企業の場合、トップ層、ミドル層、ボトム層の人材が変われば、方向性も変わる。だが、エステーにはそれが感じられない。鹿毛さんが受け持った宣伝はもちろんだが、新商品の数々を見ても、ヒットしたものがあれば、知らぬ間に店頭から消えたものもあるとはいえ、ユニークで、その時々の消費者心理に挑むものばかりなのだ。これを長年継続できる、しかもトップが代わっても続くのは「一流のマーケターになる前に必要なのは『一流の消費者』になることなのです」という鹿毛さんの一言を理解できる組織風土があるからだろう。本著で何度も指摘する「自分の行動や感情、意識に目を向け、克明に再現すること、これらを生み出す自分の心理を深く理解」し、生活者と消費者の「心のツボ(インサイト)」をつかむ。それは生活者を見つめ続けるエステーの事業活動そのものではないかと思う。
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