ゲスト・小川敦生(多摩美術大学芸術学科教授、美術ジャーナリスト)写真右

ファシリテーター・菊池麻衣子(「パトロンプロジェクト」主宰)写真左

小川敦生さんは2020年に『美術の経済“名画”を生み出すお金の話』(インプレス)を出版した。『日経アート』編集長、日本経済新聞社文化部美術担当記者等を経て、現在は多摩美術大学芸術学科教授として教鞭をとっている。30年以上にわたる取材経験を持つ小川さんは、美術と経済の関係を取材して見えてきた変化と、ビジネスシーンにおけるアートの重要性を尋ねるのに打って付けの人物だ。「アート思考」と「デザイン思考」の明確な違い、そして目的に応じて使い分けるとスムーズにビジネスシーンで応用できることも、小川さんの視点から理解できる。その上で、最近、企業研修などにも導入されている「ビジネスのためのアート・ワークショップ」を現場に生かすためのコツや、著書『美術の経済』から発信しているビジネスパーソン向けのメッセージについても話を聞いた。

小川氏は大学の授業のいくつかを「出版社」と設定し、学生たちには記者や編集者を担当することで本当の出版社と同じ体験をしてもらう。『アール』は、多摩美術大学芸術学科を紹介する年刊誌。学生たちが毎年さまざまな企画を立案する

菊池麻衣子(以下、菊池)小川さんが『日経アート』の記者や編集長をなさっていた1990年代と、2010年以降、特に17年に山口周さんの著書『世界のエリートはなぜ「美意識」を鍛えるのか?』(光文社新書)が出版されて以降では、「アートとビジネス」の捉えられ方がずいぶん違うのではないかなと想像しています。例えば、企業によるアートに関係する取り組みに変化は見られますか。

小川敦生(以下、小川)企業は1980年代くらいからアートに注目していましたが、現在とはずいぶん様子が違いました。高度経済成長の行き着いた先としてのバブル期には、企業がアートを「買う」という動きが増えました。87年に安田火災海上保険(現・損保ジャパン)が約53億円(当時の為替換算)でゴッホの「ひまわり」を落札したのは、時代を象徴するできごとでした。ただし、全般的には株式・債権・土地に続く第4の金融商品という意味合いも大きかったと思います。

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