サンスターグループ(以下サンスター)のサンスター財団は、徳島文理大学を中心とする研究グループとともに、工場に勤務する人の歯科口腔保健に関する調査研究を行った。その結果、交替勤務のある人の方が、口腔清掃状態が悪く、歯肉出血も多いにもかかわらず、1年以内の歯科受診率やかかりつけ歯科がある人の割合が低いことが明らかになった。
これらの研究成果について、2025年11月27~29日にあわぎんホール(徳島県郷土文化会館)で行われた第35回日本産業衛生学会全国協議会にて「交替勤務と歯科保健行動の関連性」と題し、発表した。
近年、職域での歯科口腔保健施策の必要性への注目が高まっているが、就労期は歯周病や歯の喪失が増える時期であり、交替勤務の人には生活リズムなどに配慮した手厚い支援を整えていくことが求められる。
口腔の健康が全身の健康や健康寿命の延伸に重要であることが広く認識され、ライフステージに応じた切れ目のない歯科口腔保健施策が求められている。特に就労期は歯周病罹患率が上昇し歯の喪失も増えることから、職域での施策の必要性に注目が集まっている。職域での保健施策には勤務実態や課題に応じた内容が必要であり、交替勤務のような特殊な生活リズムに対しては特に配慮が必要だと考えられる。そこで同研究では、交替勤務のある工場での調査データから、交替勤務の有無による口腔状態や保健行動の違いを明らかにすることを目的とした。
研究では、交替勤務のある工場で23年に実施した定期歯科健診受診者のうち、66名(男性52名、女性14名)を対象に、交替勤務のある群(該当群)13名と交替勤務のない群(非該当群)53名に分け、歯科健診結果(現在歯数、歯周ポケット深さ、歯肉出血、口腔清掃状態)と質問紙調査(歯科保健行動、食習慣、健康意識)を比較検討した。
研究の結果、以下の四つの成果が得られた。
1.対象者の属性比較
年齢は、交替勤務の該当群では平均31.3歳で、50歳未満が76.9%を占めたのに対して、非該当群では平均50.6歳、50歳未満が18.9%と、該当群の方が有意に若年層に偏っていた。性別は、該当群で男性76.9%・女性23.1%、非該当群で男性79.2%・女性20.8%と、有意な差は認められなかった。
2.口腔内状態の比較
口腔清掃状態をOHI-S(スコアは0~6、数値が大きいほど清掃状態が悪い)を用いて評価したところ、交替勤務の該当群の平均は1.02、非該当群は0.35となり、該当群の方が有意に口腔清掃状態が悪いことが分かった。また、歯周病による炎症の指標となる歯肉出血についても、歯肉出血があった人の割合が該当群では53.8%だったのに対して非該当群では17.0%と、該当群の方が有意に高い結果となった。一方で、4mm以上の歯周ポケットを有する中程度以上の歯周病の人の割合は、該当群23.1%、非該当群24.5%とほぼ同程度だった。現在歯数に関しても、該当群の平均が27.3本、非該当群が27.9本と同程度だった。
交替勤務の該当群は、口腔清掃状態が悪く、歯肉に炎症があることから、歯科保健行動に課題があると考えられた。歯周病の重症化や、歯の喪失に至っていないのは、該当群の年齢が若いことが要因と考えられるが、このまま年を重ねれば問題が生じる可能性がある。

図1:交替勤務の該当群と非該当群の口腔状態の比較 ※有意差あり
3.歯科保健行動の比較
交替勤務の該当群で、かかりつけ歯科がないと回答した人の割合は30.8%、非該当群では1.9%と、該当群の方が有意に高いことが分かった。また、忙しくて歯医者に行けないことがあると回答した人の割合も、該当群53.8%、非該当群26.4%と、該当群で高い傾向を示した。
1年以内の歯科受診については、該当群では53.8%が受診なしと回答し、非該当群の15.1%と比べて有意に高い結果となった。交替勤務の該当群で歯科受診率が低かったのは、年齢が比較的若いために自覚症状が乏しいことに加えて、かかりつけ歯科がないなど歯科医院との関係性が薄く、歯科受診の優先順位が低くなっていることが考えられる。

図2:交替勤務の該当群と非該当群の口腔保健行動の比較 ※有意差あり
4.食習慣、健康意識の比較
口腔保健行動以外で交替勤務の該当群と非該当群で差が認められた項目は、だらだら食べることがある(該当群69.2%、非該当群28.3%)、欠食することがある(該当群69.2%、非該当群34.0%)、適正体重を知らない(該当群46.2%、非該当群11.3%)だった。交替勤務の該当群では、睡眠のみならず、食事や歯みがきなどの生活リズムについても適正に保つことが難しい可能性が考えられた。
〈研究成果に関するコメント〉
徳島文理大学保健福祉学部口腔保健学科 吉岡昌美教授
交替勤務は、食事や睡眠のタイミングを変化させ生活リズムに影響を及ぼしますが、それに付随して食事の内容や間食の取り方、口腔保健行動にも影響する可能性が考えられます。今回の研究で、交替勤務の該当群は、非該当群に比べて、プラークコントロールが悪く、歯肉に炎症をきたしている割合が高いことがわかりましたが、これは食事や間食のけじめがついていないこととも関連しているのではないかと考えられます。食事や睡眠を含めた生活リズムは全身の健康のみならず、口腔の健康にも直結することから、交替勤務者には生活リズムの特殊性を踏まえた上で、全身の健康増進にもつながるような包括的な口腔健康支援が必要ではないかと考えています。






















