サンスターグループ(以下サンスター)は、2型糖尿病のある人の診療記録をもとに、血液指標と口腔指標、口腔衛生習慣の関係性を分析した。その結果、歯ぐきの出血予防にはプラークコントロールが基本であるものの、HbA1cと高感度CRPの血液指標が高い人は、両方または片方の血液指標が低い人と同程度にプラークコントロールができていても、歯ぐきの出血率が高いことが明らかになった。さらに、歯みがきに加え、オーラルケア製品を使った歯間清掃や洗口などの口腔衛生習慣の頻度が、良好なプラークコントロールと関連することも示された。

なお、プラークコントロールとは、歯周病やむし歯の原因となる細菌の塊であるプラーク(歯垢)をできるだけ減らすことである。

同研究結果を受けて、サンスター財団附属千里歯科診療所では、糖尿病のある歯周病患者に対し血液指標を考慮したプラークコントロールの目標設定と、目標達成を目指した個別の口腔衛生指導を開始している。これは、2024年度診療報酬改定で新設された「歯周病ハイリスク患者加算」の妥当性を支持する科学的知見であり、血液指標に基づくプラークコントロール目標の設定と個々に合わせた口腔衛生指導という実践的アプローチを提案するものだ。また、医科歯科連携においては、一度の紹介・照会に終わることなく、継続的な協働管理が重要であることを示している。

これらの研究成果と取り組みについて、25年11月29日に大阪国際会議場で行われた第62回日本糖尿病学会近畿地方会にて「糖尿病関連血液指標を踏まえた歯周病の管理」と題し、発表した。

糖尿病と歯周病は密接に関係し、日本糖尿病学会「糖尿病診療ガイドライン2024」においても2型糖尿病における歯周治療は血糖コントロールの改善に有効として推奨されている。24年の診療報酬改定では、糖尿病がある人の歯周病安定期治療に対してハイリスク患者加算が新設されたが、既存研究は歯周病の初期治療を対象としたものが中心であり、歯周病安定期や維持期の血液指標を踏まえた管理の必要性や対応についての検討は進んでいなかった。

そこで、歯周病安定期治療や管理で通院中の2型糖尿病のある人の血液指標と歯周指標、口腔衛生習慣の関係性を明らかにし、血液指標によるリスク別歯周管理法の検討を行うことを目的とし、一般財団法人サンスター財団とサンスター株式会社が共同で研究を行った。

研究対象:21年9月~24年1月に一般財団法人サンスター財団附属千里歯科診療所を歯周病の安定期治療(SPT)またはメインテナンスのため受診し、2型糖尿病の申告があった人の診療・問診録

研究デザイン:既存データによる分析的横断研究

分析項目:

・背景因子:性別、年齢、定期内科通院有無、インスリン治療の有無、BMI、喫煙状況
・血液指標:HbA1c、高感度CRP
・口腔指標:歯周ポケット部位数(4mm以上)、プラーク量、歯肉出血率(歯ぐきの出血率)など
・口腔衛生習慣:歯みがき回数、歯間清掃頻度、洗口頻度、歯間用ジェル使用有無

研究の結果、三つの事実が判明した。

1.各指標間の相関関係

今回の対象データからはHbA1cと口腔指標、高感度CRPとの相関関係はみられなかったが、歯肉出血率が、高感度CRPやその他の口腔指標、歯みがき回数と関連し、それらをつなぐ重要な指標であることが示唆された。また、オーラルケア製品を使った歯間清掃や洗口といった歯みがきに加えて行う口腔衛生習慣がプラーク量の少なさと相関することも示された。

図1:各指標間の相関関係を示したネットワーク図

2.血液指標と歯肉出血の関連性:プラーク量を考慮した多変量解析

局所因子であるプラーク量に加えて、全身因子である血液指標(HbA1cと高感度CRP)が歯肉出血率にどう関わっているのか、一般化線形モデルを用いて検証した。

プラーク量は全モデルで有意となり、プラークコントロールが歯肉出血コントロールの基本であることが確認された。そして、プラーク量とHbA1cを説明変数とするモデル1、プラーク量と高感度CRPを説明変数とするモデル2では、HbA1cと高感度CRP高値は、それぞれ独立してプラーク量とは別に歯肉出血に寄与していた。しかし、両指標を同時投入したモデル3では有意性が消失し、両者が相互に影響し合うことが示唆された。そこで相互作用項を含むモデル4で解析した結果、すべての因子が有意となり、血糖と全身の炎症状態が組み合わさることで、歯肉出血反応が強く現れる関係性が確認された。

3.血液指標の組み合わせ別にみた、プラーク量と歯肉出血の関連性

多変量解析で明らかになった組み合わせ効果をより詳細に検討するため、HbA1c7%、高感度CRP0.1mg/dLをカットオフ値として対象を4グループに分類した。図2は、各グループにおけるプラーク量と歯肉出血率の関係だ。4グループすべてでプラーク量の増加に伴い歯肉出血率が高くなる傾向がみられ、特にHbA1c高値×CRP高値群(図中▲)では傾きが顕著だった。これは、同じプラーク量であっても、血糖と全身の炎症状態が高い場合に歯肉出血率が高くなる関係性を示している。

図2:HbA1c×CRP高低値4グループのプラーク量と歯肉出血率の関係

<サンスター財団附属千里歯科診療所のリスク別対応の取組事例>

これらの結果は、歯周病の安定期・維持期においても全身因子が歯肉出血に影響することを示唆している。そこで千里歯科診療所では、糖尿病のある歯周病患者の継続管理において、血液指標を考慮した個別のプラークコントロール目標を設定し、医科との連携のもと、歯科衛生士による口腔衛生指導を強化する取り組みを開始している。具体的には、図3に示すように、血液検査値に基づいてリスク判定を行い、歯周検査結果とプラークコントロール目標値を照らし合わせて次回の目標を設定し、目標達成を目指したセルフケア方法を指導している。

図3:千里歯科診療所で使用している検査値と個別のプラークコントロール目標を患者と共有するための資材

<研究結果に関するコメント>

一般財団法人サンスター財団附属千里歯科診療所 鈴木秀典院長

当診療所では歯周病と糖尿病をお持ちの方に、これまでも両疾患の関係性とともにプラークコントロールの重要性をお伝えしてきましたが、なかなか具体的な目標設定をご提示できずにいました。今回、一施設の実態に基づいた横断研究の結果ではありますが、血液指標に基づくプラークコントロール目標を数値化することができました。歯周病の治療は治療期間が長期にわたることが多く、いつになったら終わるのかな?効果があるのかな?と不安になる方もいらっしゃいます。患者様と治療担当者がゴールを共有することは、二人三脚で進める長期治療に意欲をもって取り組んでいただける第一歩になると期待しています。今後さらに症例を蓄積することで、より確度の高い情報を発信していきたいと思います。