ライオンは、歯みがき行動により唾液のインフルエンザウイルス不活化能が向上することを明らかにした。特に、口腔内の総細菌数が減少した人ほど、その傾向が顕著に認められた。このことは、日常の歯みがき行動を丁寧に行うことで口腔内の健康を維持し、さらには感染症リスクの低減にもつながる可能性を示している。
同研究は、歯みがき行動による唾液のインフルエンザウイルス不活化能の向上を世界で初めて明らかにしたものであり(PubMed、医中誌WEBに掲載された原著論文に基づく〈2025年6月23日・同社調べ〉)、25年7月19日付けで英国歯科医師会が発行する科学雑誌「BDJ Open」に掲載された。論文タイトルは「Enhanced anti-influenza virus activity of saliva following toothbrushing」。
近年、各種ウイルスがもたらす感染症リスクが顕在化する中、日常生活における衛生意識が一層高まっている。口腔は感染経路の一つだが、唾液はウイルス不活化能をもつさまざまな成分を含み、体内に侵入するウイルスに対する最初の防御機構として働いている。
一方、歯みがきなどの口腔ケアは、口腔内を清潔に保ち、口腔疾患の予防に寄与するほか、良好な口腔衛生状態の維持がインフルエンザの発症率低下と関連する可能性が報告されている。しかし、これまでの研究では、歯みがきなどの日常的な口腔ケアが唾液のウイルス不活化能に与える影響については明らかにされていなかった。
そこで同社は唾液に着目し、歯みがき行動が唾液のインフルエンザウイルス不活化能に与える影響について、生化学的手法を用いて検証した。
生化学的手法:Median Tissue Culture Infectious Dose (TCID₅₀)法による唾液のインフルエンザウイルス不活化能測定、およびqPCR法による口腔内の総細菌数測定
歯みがき行動と唾液のインフルエンザウイルス不活化能との関連性を明らかにするため、20~50代の健康な男女16名(う蝕・歯周病が無い方)を対象に調査を行った。調査では、各被験者に歯みがきを実施してもらい、歯みがき行動前後の唾液を採取した。その唾液を用い、歯みがき行動前後でのインフルエンザウイルス不活化能と口腔内の総細菌数を測定した。
歯みがき実施方法:唾液採取前日23時以降は食事と口腔清掃をせず過ごしてもらい、翌朝午前9時に5分間の歯みがきを実施。歯みがきには当社市販のハミガキ、ハブラシを使用。全ての歯の頬側、舌側、咬合面をまんべんなく普段と同様のブラッシング方法でみがいてもらい10mlの水で口をゆすいでもらった
唾液採取方法:インフルエンザウイルス不活化能の測定では口腔内から直接採取し、総細菌数の測定では洗口後に吐き出した液を採取
歯みがき行動前後の唾液のインフルエンザウイルス不活化能を解析した結果、歯みがき行動前と比較して、歯みがき行動5分後の唾液において、インフルエンザウイルス不活化能(細胞感染抑制率、インフルエンザウイルス不活化能の値から算出[細胞感染抑制率(%)={1-0.1(インフルエンザウイルス不活化能)}×100]。唾液によって、インフルエンザウイルスの細胞への感染が抑制された割合を示す)が有意に向上することを確認した。また、有意差は認められなかったものの、歯みがき行動1時間後においても高いインフルエンザウイルス不活化能が維持される傾向が見られた(図2)。
さらに歯みがき行動5分後に着目したところ、行動前後の唾液中の総細菌数の変化量とインフルエンザウイルス不活化能の変化量との間に相関が認められた。特に、歯みがき行動により総細菌数が減少した人ほど、唾液のインフルエンザウイルス不活化能が高まる傾向が確認された(図3)。
これまで、疫学調査により口腔衛生状態とインフルエンザの発症率との関連性が報告されていたが、同研究では生化学的手法により、歯みがき行動によって唾液のインフルエンザウイルス不活化能が向上することを初めて明らかにした。このことから、口腔内をきれいに保つことにより、ヒト本来の免疫力(唾液のインフルエンザウイルス不活化能)が向上し、外部から口腔に侵入するインフルエンザウイルスを不活化できる可能性が示された。口腔内の健康維持のみならず、感染症への備えという観点からも、日々の丁寧な歯みがき行動が重要であると考える。
神奈川歯科大学歯学部・短期大学部の槻木恵一副学長は研究に関するコメントを寄せた。
「口腔ケアによって唾液の免疫機能が向上するという同研究の結果は、他に例をみない新たな発見です。唾液は飛沫などとしてウイルスの感染源となる一方で、ウイルスの細胞感染抑制に関与する成分も複数含んでいます。特にIgA抗体は豊富に含まれており、インフルエンザウイルスや新型コロナウイルスの細胞感染抑制にも関与すると言われています。歯みがきなどの口腔ケアによって口腔清潔度が改善され、総細菌量が低下することなどで、このIgA抗体が効果的に機能する環境が整えられ、これがウイルスの細胞感染抑制効果を向上させているのではないかと考えられます」
同研究を通じて、日常の口腔ケアが唾液本来の免疫機能を引き出し、全身の健康維持に寄与している可能性が示唆された。同社では同研究に加え、新型コロナウイルスが口腔を介して感染するメカニズムに着目した研究も報告している。今後も、良好な口腔環境を保つ上で重要な役割を担う「唾液」に焦点を当て、健康維持に資する新たな科学的エビデンスの創出を目指していくとしている。





 
			


 
                       
                       
                       
                      

















