サンスターグループ(以下、サンスター)は、滋賀医科大学と定期健康診断結果と医療機関の診療データを用いた共同研究において、歯科受診の実態や歯科メインテナンス、糖尿病と歯の本数の関連性を分析した。本研究は、ミナケアが保有する包括的な医療データおよび専門的な助言をもとに進められた。その結果、歯科受診率は特に若年層において低く(20代で約3割、30代で約4割)、年齢が上がるにつれて徐々に増加していた。また、血糖コントロールが良好な糖尿病患者と非糖尿病患者の間では歯の本数に大きな差は見られなかった一方で、血糖コントロールが不良な糖尿病患者では、歯科メインテナンスを受診していた場合でも非糖尿病患者や血糖コントロールが良好な糖尿病患者と比較し、歯の本数が少ない傾向にあることが明らかになった。さらに、歯科治療のみ受診の糖尿病患者では、年齢による歯の本数の減少がより顕著だった。本研究結果をまとめた論文は、2025年2月20日にDiabetology international誌にオンライン掲載された。これらの結果は、糖尿病患者の口腔の健康を維持するためには、歯科メインテナンスの定期的な受診に加え、血糖コントロールの両立が重要であることを示唆している。今後は、医師と歯科医師が連携を深め、患者中心の予防医療体制を強化していくことが求められる。

歯の喪失を防ぐためには、歯科受診による管理(メインテナンス)が重要とされている。これまで、自己申告に基づいた報告はあったものの、医療ビッグデータを用いた大規模な研究はほとんど行われていなかった。サンスターでは、以前より同データベースを用いた研究を進めており、過去には口の健康管理のための歯科受診が歯の喪失の抑制と関連することを発表している。糖尿病患者は、歯の喪失リスクが高いことが知られており、歯科受診が推奨されているが、その実態や効果についての研究は限られていた。そこで、本研究では、診療報酬明細書と定期健康診断結果を組み合わせたデータベースを活用し、歯科受診の実態や歯科メインテナンスの状況、糖尿病と歯の本数の関連を検証した。

本研究では、15年4月から16年3月までの1年間のデータを用いて、横断研究を行った。

対象①:複数の健康保険組合の定期健康診断受診者のうち、20-74歳の70万5542人(平均年齢44.7歳)を対象に歯科受診内容(メインテナンスのみ受診/メインテナンスと治療受診/治療のみ受診/歯科未受診)における実態を分析した。歯科受診内容は、期間中に発生した歯科レセプトの診療行為をもとに歯科医師が分類を行った。

対象②:歯の本数や糖尿病のデータを有する40-69歳の18万5820人(平均年齢50.0歳)を対象とし、糖尿病の状態別に歯科メインテナンスと歯の本数の関連を検証した。歯科メインテナンス受診者と歯科治療のみの受診者に分けた後、糖尿病状態(非糖尿病患者/血糖コントロール良好な糖尿病患者/血糖コントロール不良な糖尿病患者)で分類し、年齢別に歯の本数の平均値を比較した。糖尿病の定義は、期間中に糖尿病病名(ICD 10:E10-14。WHOにより定められた国際疾病分類コードに基づく疾病の分類で、E10-14は糖尿病に該当する)が付与された医科レセプトが発生した人を糖尿病患者、さらにHbA1c≥7.0%を血糖コントロール不良者としている。

歯科受診の実態は、全対象者における歯科受診率は46%となり、若年層ほど受診率が低く、20代では34%、30代では43%と特に低調だった。また、歯科受診内容の内訳を見ると、20代では「メインテナンスのみ」が7%、「メインテナンスと治療」が11%、「治療のみ」が16%だった。年齢が上がるにつれて「治療を含む受診(歯科受診内容が『メインテナンスと治療』と『治療のみ』に該当する人)」の割合が増加する一方、「メインテナンスのみ」の割合に年齢による大きな差はなかった。糖尿病患者における歯科受診の傾向は、全体と大きく変わらなかったが、血糖コントロール不良者では、いずれの年代においても歯科受診率が特に低く、メインテナンスを受けている人の割合も顕著に少ないことが明らかになった(図1)。

図1)年代別の歯科受診の割合
( )カッコ内の数値は、年代別の人数

歯科メインテナンスおよび糖尿病と歯の本数の関連では、歯科受診内容別に歯の本数を比較したところ、糖尿病患者、非糖尿病患者のいずれも歯科治療のみの受診者はメインテナンス受診者と比べて歯の本数が少ないことが分かった(図2)。

図2)糖尿病別の歯科メインテナンスと歯の本数の関連。点が年齢別の歯の本数(平均値)を示しており、曲線は一般化モデルによる予測結果(95%の信頼区間)を表している。

また、歯科受診内容と糖尿病の状態別に歯の本数を比較したところ、血糖コントロール良好な糖尿病患者と非糖尿病患者の間に顕著な違いは認められなかった。一方、血糖コントロール不良な糖尿病患者は、歯科メインテナンス受診者および歯科治療のみの受診者のいずれにおいても、非糖尿病患者と比べて明らかに歯の本数が少ないという結果が得られた(図3)。

図3)歯科受診内容別の糖尿病状態と歯の本数の関連。点が年齢別の歯の本数(平均値)を示しており、曲線は一般化モデルによる予測結果(95%の信頼区間)を表している。

本研究により、歯科メインテナンスの受診が歯の本数の維持に寄与すること、さらに糖尿病患者においては血糖コントロールの良否が歯の健康に大きく関係していることが明らかとなった。特に血糖コントロールが不良な糖尿病患者では、歯の本数が少ない傾向が見られたことから、歯科メインテナンスの重要性に加え、医科と歯科の連携による包括的な健康管理の必要性が示唆される。口腔の健康を維持するためには、治療を目的とした受診だけでなく、予防・管理を目的とした定期的なメインテナンス受診が不可欠だ。とりわけ糖尿病を有する人においては、歯科医師と医師が連携し、口腔と全身の双方を視野に入れたアプローチが求められる。

滋賀医科大学 内科学講座(糖尿病内分泌・腎臓内科)客員准教授 鹿児島大学大学院 糖尿病内分泌内科学 森野勝太郎 准教授は、本研究結果について、「本研究は、ある1年の断面を見た調査ですので、因果関係までは言えないのですが、他の研究に比較して大規模なデータに基づいて詳細な検討を行うことができたこともあり、実態把握という点で意義のある研究だと考えています。これまでの他の研究と合わせて考えると、歯科定期受診をすることの大切さが改めて確認されたと同時に、糖尿病を有する方では特に重要であると言えます。若い世代の方にぜひ知ってほしいです」とコメントしている。

論文情報は以下。

・タイトル:Association among the number of natural teeth, dental maintenance visits and diabetes status: a cross‑sectional study using employment‑based healthcare claims database

・著者:Miki Ishikawa, Takako Yasuda, Natsuki Nara, Itsuko Miyazawa, Nakao Takase, Kayo Harada, Atsushi Ishikado, Katsutaro Morino

・掲載誌:Diabetology international Vol.16, No.2 (April 2025)

・ DOI:https://doi.org/10.1007/s13340-025-00805-1

サンスターグループは、持株会社サンスターSA(スイス・エトワ)を中心に、オーラルケア、健康食品、化粧品など消費者向けの製品・サービスをグローバルに統括するサンスター・スイスSA(スイス)と、自動車や建築向けの接着剤・シーリング材、オートバイや自動車向け金属加工部品などの産業向け製品・サービスをグローバルに統括するサンスター・シンガポールPte.Ltd.(シンガポール)を中核会社とする企業グループだ。

滋賀医科大学 内科学講座(糖尿病内分泌・腎臓内科)は“地域社会に還元できる優れた医師”、“将来の治療に役立つ研究のできる科学者”の育成を目標として、スタッフ一同が協力して活動している。とくに、糖尿病・肥満症と腎臓病を中心とした血管合併症について様々な研究を行ってきた。これからも患者に役立つ研究を推進していきたいと考えている。

 

 

 

ミナケアは、人々の健康を長く、手軽に守ることができる社会に向けて、「健康に投資する医療(投資型医療)」の実現を目指すヘルスケアベンチャーだ。11年の創業以来、健康づくりや予防のための経営戦略やデータの活用、コミュニティの構築などの事業を展開している。投資型医療で人と社会の未来を変えていく。