UK発、ティーン向けに特化したビューティー製品を展開するブランド「インドゥ(Indu)」は、昨年9月に立ち上がったばかりのスタートアップビジネスだ。創業からまだ1年も経たないにもかかわらず、この8月にユニリーバ・ベンチャーズおよびV3ベンチャーズから総額400万ポンド(約7億8000万円)のシード投資を獲得した。資金は主に国内での小売展開を拡大するために使われる予定で、特に大手化粧品小売業セフォラUKとの提携により実店舗販売を進めることが主目的となっている。すでに7月から店内にインドゥ専用コーナーが開設され、SNSで話題の品を手に取ってみたい中高生が足を運んでいる。

セフォラ店舗内にあるインドゥの売り場

インドゥの創業者アーロン・チャタリー氏は、ビューティー用品全般を扱うECブティック「フィールユニーク(Feelunique)」を2004年から運営していた。双子の娘の父でもある。娘たちは13歳(サーティーン)になってすぐに「自分たちが使いたいと思うビューティー製品がない」と言い出したという。ちなみに英語で「ティーンエイジャー」とは13〜19歳を指す。12歳(トウェルブ)までは、年齢の呼び方の最後にティーンとつかないのでまだ思春期前、というくくりだ。中学入学のタイミングで13歳になるので、そのあたりから母親のコスメを使い始める女子が多い。学校にお化粧をして行ってもまったく問題にはならないが、10代の敏感な肌には大人向け製品が合わないこともよくある。この国の親にとっては、子どもが派手なメイクをすることよりも肌荒れのほうが心配の種のようだ。

子ども用とうたうコスメは以前から存在していた。しかし、安っぽいアイシャドウやリップグロス程度で、チャタリー氏の娘たちによると「子どもならこれで十分、という大人からの押し付け」製品しかなかったという。じっくり話を聞いたチャタリー氏は、いままで見過ごされてきた大きな市場が眠っていることを感じたという。最初に行ったのはまず、SNSと企画の担当に娘たちを据えてたくさんのティーンに製品開発に携わってもらうことだった。「ティーン委員会」が設けられ世界中から広く参加者を募った。親たちにも意見を聞いた。思春期の不安定な肌質に適した製品を、できるだけ自然な材料で。素材もエシカルなものを。ティーン間のトレンドが反映された色数豊富なラインアップ。そのようなこだわりを追求すると、中学生のお小遣いで気軽に買えるような価格では実現できない。しかし、親たちからは「子どもに安心して使わせられる製品なら、あまりに高価でない限り躊躇せず買ってあげる」という声が多かった。

スティック状の製品にはすべて、キーリング対応の紐がついている

インドゥの商品ラインアップはこうした声を反映している。幅広い肌の色やスキンタイプに対応し、健康な肌をサポートするマイクロバイオームも含有。モイスチャライザー、マスク、スクラブ、気になる部分ごとのケアといったスキンケア製品のほか、リップオイルやブロウジェル、色数豊富なアイシャドウや頬紅も含まれている。好みの単品を合わせてセットできるポッドと呼ばれるキャリーケース、かばんやベルトからぶら下げられるアクセサリー的なパッケージデザインはティーンたちのリクエストだ。ジェンダーフリー製品であることも重要視し、SNSに登場するユーザーにはメイク男子も現れる。

カスタマイズできる「ポッド」。箱のイラストから使い方が分かる

最近のティーンメイクのトレンドは、非常に濃いメイク派と素顔に近い仕上がりを好む自然派の両極に分かれているが、インドゥは後者をターゲット層としている。濃いメイク組は、大人と同じブランド商品を使うことへのこだわりが強くティーン向け製品には興味が薄いからだそう。自然派に向けた、色のつかないマスカラやリップなどはすでにインドゥの主力ヒット商品だ。また、スキンケアの基本からメイクのトレンドまで学ぶことのできる「エデュケーション・ハブ」も開設され、ターゲットユーザーとの密接なコミュニケーションを強化している。

SNSでの広告でスタートを切り、とことんティーン向けに特化したECビューティーブランドとして、すぐさまメディアから注目を浴びた。しかし開業キャンペーンはオンラインではなく路面のポップアップ店で華々しく行っている。チャタリー氏は初めからインドゥをオムニチャンネル事業に育てることを目指したそうで、セフォラUKでの独占販売提携は、実店舗展開を支える重要な一歩だと語る。実は前の事業「フィールユニーク」も3年前にセフォラに売却したという経緯があった。現在は主に英国内でのオムニ小売展開に焦点を当てているが、25年までにアメリカ市場への進出も計画中だ。

ユニリーバ・ベンチャーズのビューティー投資専門家アナ・オルソン=バスカヴィル氏は、「ティーンに支持され、親も安心して買い与えられるプレミアム製品」という市場をインドゥが掘り当てたことを高く評価しての投資だとしている。V3の共同経営者ジミー・ディエッツ氏も、ティーン世代特有のスキンケアニーズだけでなく、彼らのライフスタイルにも寄り添った画期的なブランドだと賞賛した。チャタリー氏は、「厳しい経済環境下での資金調達の成功とセフォラとの提携は、インドゥがこの新しいカテゴリーを代表するブランドとなる可能性を証明するものだ」と述べている。

冨久岡ナヲ
ロンドン在住ジャーナリスト。英国の動向を伝える記事を各種メディアに執筆中。今までに300名を超える企業エグゼクティブ、起業家、政治家、科学者などへの英語/日本語インタビューを行ってきた。英国企業や政府諸庁の日本語媒体制作、日本企業向けに広報素材の英語ローカライゼーション支援も手がける。

月刊『国際商業』2024年12月号掲載

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