直径5ミリメートル以下の微細なプラスチック「マイクロプラスチック」(以降マイクロプラと表記)が問題視されるようになって久しい。一度環境中に出ると回収が難しく、自然に分解されることも事実上ないことから、水中や土壌に大量に堆積してしまうからだ。飲料水や食物連鎖を通じて人体にも入り込む。ウィーン医科大学の2022年の研究によると、人は平均で毎週5グラムのマイクロプラを摂取しているという。その影響はまだあまり解明されていないものの、生態系への影響や人への健康被害が危惧されている。
22年8月号の海外情報でも解説したように、EUは欧州グリーン・ディールや「化学品の登録、評価、認可および制限に関する規則(REACH)」に沿って、近年プラ規制を強化してきた。欧州委員会は、18年に発表した「EUプラスチック戦略」の中で、マイクロプラについてもその使用を制限することを明らかにし、続く21年に発表された「ゼロ汚染アクションプラン」では、30年までにマイクロプラ汚染を30%削減する方針を示していた。
これに先立つ17年には、欧州委員会は欧州化学物質庁(ECHA)にマイクロプラについて諮問し、規制案はすでに出ていたが、経済、通商などの各総局(省庁)、業界団体、市民団体との調整に時間がかかり、採択は大幅に遅れていた。ようやく23年9月末、欧州委員会は、あらゆる種類の「製品に意図的に添加されたマイクロプラスチックを制限する措置」〔C(2023)6419〕を採択し、既存のREACH規則(ECNo.1907/2006)の付属書17を改正した。本規則は10月16日の施行直後から、原則としてEU内で作られる製品に加え、輸入品に対しても全加盟国で同様に適用されている。
本規制により、有機化合物で不溶性で、生分解されない直径5ミリメートル以下(繊維の場合は15ミリメートル以下)の合成ポリマー粒子を製品に使用することが禁止された。添加される合成ポリマーが全製品重量の0.01%以上になれば本規則の対象となる。100ナノメートル以下(繊維では300ナノメートル)の粒子に対しては適用されない。また、製造過程で工業用地内でのみ使用され、流出を制限するための方法を明記した製品については、欧州化学物質庁(ECHA)へ報告すれば販売できるなどの例外もある。
業界団体による強い働きかけの結果、合成ではない天然ポリマーや、無機質(ガラス、金属など)のもの、生分解性のあるもの、水溶性のポリマー(2g/L以下)、炭素を含まないポリマーについては、本規則は適用除外となった。
さて、注目される化粧品・パーソナルケア製品関連を見てみよう。これまで当該製品分野では、特定の光沢や質感、色を出すために、また、香りや洗浄効果を高めるためなどに、マイクロビーズを含むマイクロプラはさまざまな目的で添加されてきたが、今後EUにおいては代替素材を用いた開発が求められる。それには時間を要するため、次のような区分で、即刻禁止または段階的移行期間が設けられた。マイクロビーズを含む製品、リンスオフ製品、リーブオン製品、メイク・リップ・ネイル製品の主に四つのカテゴリーだ。
まず、マイクロビーズを含む製品はすべて規則施行と同時に販売禁止となった。マイクロビーズはマイクロプラの一種の極小粒子で、汚れや角質除去などの目的で洗顔料やボディウォッシュ、ハミガキなどに広く用いられてきた。これらの製品は産業界でもすでに一部自主的に廃止され、フランスやオランダ、スウェーデンなどのEU加盟国でも販売が禁止されていた。このため、多様な代替素材がすでに存在する。
また、合成ポリマー製のグリッター・ラメそのものの販売は、化粧用に限らず、工芸用のラメパウダーも直径5ミリメートル以下のものは禁止となった。グリッター・ラメそのものでなく、マニキュアなどに含まれている場合は移行期間が設けられた。筆者の住むドイツでは、販売禁止直前にグリッターの売り上げが急増し、芸能人やインフルエンサーによる買い占めが話題になった。すでに天然資源を用いた生分解性のグリッターが市場にあることから、今後はそのような製品が注目されるだろう。
次に、マイクロビーズ以外の合成ポリマー微粒子を配合した製品が段階的に規制される。リンスオフ製品への添加は、4年の移行期間後、27年10月に禁止される。リンスオフ製品からのプラ環境流出はより多かった。フェイスクリームなど、洗い流さないリーブオン製品への添加は、6年の移行期間後、販売が禁止される。また、洗剤・柔軟剤などに広く使用されてきた、微小なカプセル状にした香料の移行期間も6年とされた。
最後にメイクアップ、リップやネイル製品への添加については、12年の移行期間が与えられ、35年10月までは販売できる。ただし、8年後の31年10月以降も添加する場合、その旨をラベル、包装、リーフレットに表記するよう義務付けられた。
欧州委員会は本措置により、マイクロプラの環境への放出を、今後20年間で約50万トン防げると見込む。化粧品・パーソナルケアの欧州業界団体コスメティクス・ヨーロッパは声明で、本規則は環境にとって良いだけでなく、消費者にも安全な製品を生む機会になると歓迎している。
なお、水溶性および液体のポリマーは、本規則から除外されているが、水溶性でも生分解性が定かではないポリマーもある。独フラウンホーファー研究機構の18年の研究によると、化粧品に使用されるポリマーは、固形のものより液体、半固体、水溶性のものの方が多い。化粧品によく使用される液体ポリマーのジメチコンなどは環境に対する潜在的なリスクが指摘されているため、欧州の市民団体からは、今回のEU規則は不十分であるとの批判もある。
消費者意識の高まりから、すでに製品にマイクロプラを用いていないことを売りにする化粧品ブランドや、パーソナルケア製品も続々と増えている。欧州では製品へのマイクロプラの含有を確認できるアプリも広まっている。企業には先を読んだ対応が求められそうだ。★
▪駒林歩美
ドイツ在住リサーチャー・ライター。東京で外資系企業やベンチャー企業に勤務後、東南アジアで国際協力の仕事に従事し、現在はドイツから欧州事情を日本に向けて発信している。
月刊『国際商業』2024年01月号掲載
トップ画像著作者:frimufilms/出典:Freepik