あるメーカーの返品倉庫を見学させてもらった。流通各社から卸売業を通じて送られてきた段ボールがうずたかく積み上げられていた。神奈川から、北九州から、群馬から、と全国の店から返品が届く。これほど無駄な物の運搬はそうあるまい。悲しい現実なのは、中身を見ると、発売直後で、店頭で品薄の人気商品があったことだ。お店の業務で間違いが生じたのだろうか。そうだとすれば、商品を売ることへの気持ちが欠如していると言わざるを得ない。商品は大小さまざまな段ボールに入れられ、それも返品倉庫の作業負担を重くしている。開けると1品だけで、大量の緩衝材が詰まっていることもある。他社の商品が混じることもあるそうで、それも卸売業は受け取りを拒否。もう運びたくないのだろう。いずれもメーカー負担で処理している。化粧品・日用品業界では、新商品の運搬では共同配送などの取り組みが進んでいるが、返品に関するルールがないという。品格を疑うような段ボールの詰め方をしているのは、大手ドラッグストアの1社だった。返品倉庫を案内してくれたメーカーは、普段は公開していない。社内調整してまで現実を見せてくれたのは、自社商品への愛が強いから。そして業界慣習への強い危機感があるからだ。いきなり返品はなくならない。せめて返品作業を効率化するルール作りが必要ではなかろうか。

月刊『国際商業』2022年12月号掲載