第254回生命科学フォーラムが9月30日に開催され、大阪大学大学院医学系研究科・神経情報学の栁澤琢史教授を招き「血管内脳波を用いたBrain-Machine Interfaceの臨床応用」の題目で講演を行った。ブレイン・マシン・インターフェース(BMI)の技術開発においてフロントランナーとして取り組む栁澤教授が、その最先端の研究内容と今後の展望について語った。

近年、BMIを筋萎縮性側索硬化症(ALS)やてんかん等の治療やリハビリに応用する技術開発が急速に進み、一部、社会実装も始まっている。また、昨今では、人工知能(AI)の登場で、この領域も大きな転機を迎えようとしている。栁澤教授は、このBMIの研究に長年取り組み、さらにAIもいち早く取り入れて新たなBMIの開発に着手。脳で思い浮かべた画像等のイメージをAIで分析し、その意味するところを生成するという、言語に基づく情報処理とは異なるアプローチで独自の研究を行っている。BMIにおける低侵襲型で高感度な脳波測定・刺激メソッドを開発。「ALS患者で最後まで保たれる機能のひとつが視覚です。だからこそ、視覚を通じてイメージを意思疎通に活用できれば、より患者さんに寄り添った支援が可能になります」と、着想の経緯を語る。

脳波を直接計測してロボットやコンピューターを制御するBMIは、ALSなど運動機能を失った重症患者の意思伝達手段として期待されている。近年はAI技術の発達により、頭蓋内に留置した電極からリアルタイムで意図した言語を出力する技術が向上し、米国を中心に臨床治験や保険償還に向けた議論が始まっている。しかし、運動野の神経細胞自体が病変により変性すると脳波信号が弱まる点や、開頭手術・全身麻酔に伴う侵襲性の高さや併発症リスクが患者側の導入の大きな障壁となっていた。

そうした従来の運動野依存型BMIの限界を打破するため、頭の中で思い浮かべた映像(視覚的想起)を脳波から解読する新たなBMI技術の開発が進む。AI(深層学習モデル)の潜在空間と脳活動データを対応付けることで、患者が画面上の提示画像を認識しながら意図する像へ思考を寄せていく「クローズループシステム」を構築。このシステムにより、人物や物体などの画像を80~90%の高い精度で選択・出力することが可能となった。さらに、訓練を重ねることで精度が向上する特性を持ち、画像だけでなく文章生成への応用研究も並行して進められている。

一方で、開頭手術や全身麻酔の不利益を避けるため、既存のカテーテル治療技術を活用した「血管内脳波BMI」の開発が進行中。頸部などの血管からマイクロカテーテルを通し、大脳表面の静脈血管内に柔軟なヘリカル電極を留置する。頭頂部の大きな静脈にしか留置できない従来の硬質電極と異なり、細い脳表静脈群へアプローチすることで、手や口の運動野、さらには視覚野といった広範囲かつ重要領域から高精度な脳波信号を計測・刺激できる。ブタを用いた長期安全性試験でも血栓形成を防ぎながら高い信号強度を維持できることが確認されている。