6月下旬、南仏アベンヌ村を訪問した。天然の温泉水アベンヌウオーター(化粧水)の故郷で、製薬が祖業の企業らしく工場は美しく、品質管理は緻密。ボトルの目視検査だけで4回も行っていることに驚いた。皮膚ケア施設「テルマリズムセンター」を併設しており、年間利用者数は約3000人。3週間滞在し、医師の指導のもと温泉水を使って心身のケアを行う。ウオーターラボ所長によると、ミネラルが豊富であれば肌のケアに優れている、というわけでもない。絶妙なミネラルバランスは、複雑な地層に数百年間も浸透した雨が約50年かけて湧き出る自然の仕組みから生まれる。このメカニズムは15年かけて山岳地帯を調査して明らかにした。これもエビデンス重視の製薬企業らしい取り組みと言える。創業者ピエール・ファーブル氏は、地域の文化を愛し、モノづくりにこだわり、その哲学は今も受け継がれている。自然環境保全のために、国や県などの行政、地域の生活者や農家と連携を強化。文字通り、社会貢献と事業の両輪を回すCSVを実践しているのは、その一例である。約40年前から美の文化を育む資生堂との協業が続くのも頷ける話だ。日本で知られていないアベンヌの価値は、国際商業9月号(8月7日発売号)で詳報する。

月刊『国際商業』2025年08月号掲載