コーセーは、皮膚常在菌の数が多い人は少ない人に比べて“肌が粗い”“毛穴が多い”“赤みが強い”など、一部の肌状態と菌数の間には相関があることを確認した。これは肌の菌数を簡便に計測する手法を確立したことによる成果であり、肌研究においてこれまで一般的であった菌の存在比率という指標に加えて、“菌数”という新たな評価軸を与えるものだ。同研究の成果は、2023年9月の日本化粧品技術者会誌(SCCJジャーナル)に掲載され、2024年5月に同誌の「2023年度 最優秀論文賞」を受賞した。

図1

皮膚には目には見えない常在菌が存在しており、肌研究の分野では遺伝子解析技術を用いることで常在菌の種類と存在比率を分析することが一般的だった。この皮膚常在菌は健常な皮膚ではその人特有の比率を保った皮膚細菌叢を形成しており、例えば保湿剤の1カ月にわたる連用前後でもその存在比率は大きくは変化しないことが知られている(図1)。このことから、常在菌比率は人それぞれで安定しており、肌状態を説明するには限界があると考えた。そこで同研究では皮膚常在菌の“数”に着目し、その計測方法の確立と肌状態との関係性を調査した。

菌数を把握するための手法として、まずは既存の手法である培養して数える方法を検討したが、皮膚の菌には培養が難しい種類がいることから網羅性に課題があった。次に菌の種類を分析する際の遺伝子解析技術を用いる方法を検討したが、菌ごとにその対象遺伝子の数が異なるため、定量性に欠けていた。

そこで、菌に共通して存在する「tuf gene」という遺伝子に対象を見出し、実験手法の検討を重ねることで、皮膚常在菌の数を網羅的かつ高い定量性をもって計測する方法を確立した。

図2

皮膚常在菌の数と肌状態の関係を調査するため、20歳から80歳の一般女性269名の頬部からテープストリッピング法(テープを肌に貼り、肌表面の皮膚を取得する採取方法)により皮膚の一部を採取した。これらを今回開発した計測方法にて分析したところ、菌数は1平方センチメートルあたり数百個から数十万個と人によって幅広く、多い人と少ない人では100倍以上の菌数の差があることが分かった(図2)。また、年齢があがるほど、菌数が少なくなる傾向も認められた。

図3

ここで菌数が多かった上位53名を、少なかった下位53名の肌状態と比較したところ、肌の粗さのスコアが大きく、毛穴が多いことが分かった。これは肌の凸凹や毛穴が多い肌の方が、常在菌が住みやすいためである可能性がある。また、菌数が多い人の方が、肌の赤みが大きいことも分かった。これは常在菌やその代謝産物によって肌の炎症が引き起こされやすいためではないかと考えられる。皮脂量についても、菌数が多い人の方が数値は大きく、皮脂が常在菌の栄養源になっていることなどが示唆されました。皮脂量は加齢とともに減少することが知られているが、年代別の解析においても菌数が多い方が、皮脂量が多い傾向が認められた(図3)。

一方で、角層水分量やpHといった菌の生育に関係しそうな要素は菌数との間に相関関係はなかった。このことから、顔の菌数に与える影響は水分量やpHよりも皮脂量や毛穴数、肌の粗さ(凸凹の多さ)のほうが大きいことが考えられる。これらの結果から、肌状態と皮膚常在菌との関係性を研究する上で、“菌数”は重要な因子の一つであるといえる。

同研究から、皮膚常在菌の“数”は肌と菌の研究において重要な評価軸であることが分かった。皮膚常在菌は、保湿成分を産生して肌を保護したり、免疫応答により病原菌の定着を防ぐなど、人体と共生する有益な存在だ。

コーセーでは、今後も肌と常在菌の研究を継続し、肌の健康に有用な成果の創出に取り組んでいく。