中国の大セールの一つ「618」で、日本ブランドにとって看過できない事態が起きた。福島原発の処理水放出を巡り、中国と韓国が安全性を危惧。韓国政府は態度を軟化させたものの、中国政府は「核汚染水」と呼び、強い非難を続けている。それに呼応するように、中国メディアはネガティブキャンペーンを敷き、消費者の不安を煽った。結果、618では、日本ブランドへの問い合わせ件数が増え、ブランドによっては返品率が前年の数倍に跳ね上がったという。中国の原発もトリチウムを放出しているから、中国政府の非難は国家間の駆け引き、つまり政治問題と見る向きもある。だが、中国人の話を聞くと「福島県民の反対運動を見ると、日本政府は自国民すら説得できていないではないか」と不安な気持ちになるそうだ。化粧品は日用消費財で、自分の肌に塗る身近な存在。生活者に寄り添ったアカウンタビリティ(説明責任)が一段と問われるだろう。618が終わった後、騒動は静かになったが、火種はくすぶっている。一部の日本ブランドは、7月に始まる福島の処理水放出を控え、生産ラインを関東から関西に移転したほか、商品に使用している水の源流を調査。あらゆる疑問に答える準備をしているという。杞憂に終わればいいが、準備だけは万端に整えておきたい。

月刊『国際商業』2023年08月号掲載