コーセーは、234名の日本人女性の顔のマイクロバイオーム(細菌叢)と油分量などの皮膚状態を網羅的に解析することで、皮膚マイクロバイオームの多様性(複数種類の常在菌が共存していること)が、毛穴やキメなどの肌状態の違いだけでなく、肌の明るさの加齢変化にも相関があることを明らかにした(図1)。なお、この研究成果の一部は、フランス化粧品協会が発行する化粧品や肌に関する国際学術誌「International Journal of Cosmetic Science (IJCS)」に掲載され、2021年に同誌に掲載された77論文の中で最も優れた論文として「ベストペーパー賞」を受賞している。
近年、世界の美容・ヘルスケア分野で皮膚マイクロバイオームに注目が集まっている。化粧品研究においても、表皮ブドウ球菌やアクネ菌など、肌上に存在する菌と肌状態の関係性に着目した化粧品開発が盛んに進められている。しかしながら、皮膚マイクロバイオームと皮膚状態の関係は複雑であり、未解明な点が多く残されている。そこで、同社では皮膚マイクロバイオームと皮膚状態の関係性について大規模な網羅的解析に取り組んだ。21~80歳の健康な日本人女性234名(ミルボンとのパネル契約者で共同測定を実施)の頬からマイクロバイオームを採取し、同時に油分量や肌の明るさなどの肌状態19項目を計測することで、その関係性の解明を試みた。
人の皮膚上からは約800種類もの細菌を検出することができるが、それらは単独ではなく、他の菌との関係性の中でなんらかの役割を担っていると考えられる。そこで、同研究では表皮ブドウ球菌などの特定の菌のみに着目した解析ではなく、検出された菌の中で存在比が多い上位10種類の菌の比率を分析した。
その結果、実験参加者は複数な菌が混在するマイクロバイオームの多様性の高いグループと、アクネ菌の一種であるPropionibacterium が独占的な多様性の低いグループに大別されることが分かった。このグループ間で肌状態の違いを解析したところ、多様性の高いグループは低いグループに比べて、油分量や毛穴が少ないことや、ニキビのできやすさと関連のあるポルフィリン量が少ないこと、さらには肌の細かな凹凸が目立ちにくく、肌のキメ状態が良好であることが明らかとなった(図2)。一般的にマイクロバイオームの多様性が高い肌は、良い肌であると言われてきたが、今回の200名を超える大規模な網羅的解析により、具体的な肌特徴まで把握することができた。
さらに、皮膚マイクロバイオームの各グループと肌状態の間に関係性が見られたことから、グループ間で年齢と肌状態の相関解析を行った。その結果、いくつかの肌状態について加齢に伴う変化にグループ間の差があることが分かった。例えば、多様性の高いグループは加齢に伴って肌の明るさが減少するのに対し、多様性の低いグループでは加齢と肌の明るさには相関が見られないことが分かった(図3)。この結果は、皮膚マイクロバイオームの多様性に着目した分類をすることで、その人の加齢リスクを評価し、予測することができる可能性を示している。
同研究により、皮膚マイクロバイオームの多様性の違いと肌状態の関係、および加齢リスクを評価できる可能性を見出すことができた。今後は研究をさらに深化させることで、お客の皮膚マイクロバイオームのタイプに合わせた美容提案や加齢に向けた提案などの実現に向けて取り組んでいく。