ポーラ・オルビスグループの研究・開発・生産を担うポーラ化成工業は、横浜国立大学と共同で汗で日焼け止めが肌から剥がれる様子を可視化することに成功した。さらに、人工汗を用いた簡易かつ効率的な評価法も開発した。これらの技術により、日焼け止めが剥がれるメカニズムの解明が進み、心地よい感触でありながら汗に強い新たな日焼け止めを開発することが可能となる。
猛暑やウェルネス意識の高まりに伴い、日焼け止め市場は世界的に拡大している。日焼け止め製品には“みずみずしい使い心地”と“汗や水でも落ちない耐久性”が求められるが、両者はトレードオフの関係だった。同研究ではこの課題に根本から向き合い、肌に塗った日焼け止めが汗によりどのように剥がれ落ちるのか、その一部始終を観察し、メカニズムに迫りたいと考えた。
同研究では、従来の耐久性評価法で不可能だった「肌上でのリアルタイム観察」に挑戦した。これまでの日焼け止めの耐久性評価は、実験用プレートに日焼け止めを塗り、プレートを水に漬けてしばらくしてからプレート上に残った量を評価するもので、剥がれる過程の様子やメカニズムまでは分からなかった。そこでポーラ化成工業では、非侵襲で肌の表層を数㎛レベルの解像度で観察し続けることができる、OCT(Optical Coherence Tomograpy:光干渉断層撮影)技術に着目し、独自の技術改良を加えた。
OCTとは、光の干渉を利用して、ものの表面や内部を断面画像で見る技術だ。目や血管、肌などの微細な構造を高い解像度で観察でき、病気の早期発見や診断に役立てられている。超音波を使うエコー検査のようなイメージで痛みなく肌内部を測定でき、かつ、エコー検査よりも詳細に知ることができる点が特徴である。同研究ではOCT技術を肌表面の日焼け止め膜の断面観察に適用した(図2)。
実験では、腕に日焼け止めを塗り、実際に運動して汗をかいた後に、OCT技術で腕の表面を観察した。細かく条件を設定することで、肌に塗布された日焼け止めの膜が汗によって崩れていく様子を鮮明に可視化することに成功した(図1)。特に、連続的に観察できるようになったことで、皮膚から出た汗の粒により膜が局所的に浮き亀裂が生じたり、汗の水分に溶け出すプロセスが明らかになるなど、従来は見えなかった“日焼け止めが落ちる仕組み”が解析可能となった。加えて、人工汗(人間の汗と類似成分で作られた実験用素材)を用いた評価方法も開発し、簡易かつ効率的に多くのサンプルを評価できるようにもなった。
日焼け止め膜と汗との関係を観察する度に試験参加者が運動し汗をかくことは、参加者への負担が大きく、人数を十分に確保できなかったり、季節などさまざまな要因による試験条件のブレにもつながることが予想される。そこで、より簡便な評価法を模索した結果、日焼け止めを塗った肌の上に一定量の“人工汗”をたらして、日焼け止め膜の変化を評価する方法を開発した。実際の運動を伴う方法と、人工汗を使う方法とで、日焼け止め膜の持続性を比較したところ、両試験法で処方間での変化の仕方が類似していることがわかった(図3)。
この結果をもとに、今後は人工汗を使うことで簡易かつ効率的に数多くの処方を評価できるようになり、より迅速にメカニズム解明が進むと考えられる。
同研究により、肌上での日焼け止めの挙動を非侵襲かつ正確に評価できるようになり、日焼け止めが落ちる仕組みとその改善策が研究可能となった。OCT技術を活用することで、感触の心地よさは改良しながら耐久性に優れた新しい日焼け止め製剤の設計が加速することが期待される。
なお、同研究成果の一部は、第2回日本化粧品技術者会(SCCJ)学術大会において口頭発表部門のTOP3に選出されている。