エイボン・プロダクツは1月31日、社会的にめざましい活躍をした女性の功績を讃えるアワード「エイボン女性年度賞 2018」授賞式典を開催した。

同賞は、エイボン・プロダクツのCSR活動の根幹として「社会のために勇気や希望を与える女性 たちの活動を後押ししたい」という願いのもと、1979年に創設された女性のためのアワード。その年度で顕著な活躍した人、長年の地道な努力を結実した人、女性の新しい可能性を示唆する先駆的活動をした人という観点で、第1回受賞者の婦人運動家・市川房枝氏にはじまり、様々な分野で顕彰してきた。

同賞の最大の特徴は、受賞者の活動分野における今後の発展を願い、受賞者への副賞とは別に受賞者が指名する団体へ各賞の副賞と同額の寄付を行うこと。これまでの寄付団体は192に達している。

なお、選考委員は、16年度・17年度より引き続き、元マラソン選手の有森裕子氏、評論家で公益財団法人大宅壮一文庫理事長の大宅映子氏、キャスターの国谷裕子氏、作家の原田マハ氏の4人である。

「エイボン女性年度賞 2018」授賞式典

39回目を迎える2018年度の受賞者は以下のとおり。

大賞:角野栄子氏(童話作家)

教育賞:新井紀子氏(国立情報学研究所 社会共有知研究センター センター長・教授/一般社団法人教育のための科学研究所 代表理事・所長)

芸術賞:植田景子氏(宝塚歌劇団 脚本家・演出家)

スポーツ賞:田中ウルヴェ 京氏(日本スポーツ心理学会認定スポーツメンタルトレーニング上級指導士/国際オリンピック委員会(IOC)マーケティング委員/国際オリンピック委員会(IOC)認定アスリートキャリアプログラムトレーナー/ソウル五輪シンクロナイズドスイミング・デュエット銅メダリスト)

ソーシャル・イノベーション賞:石坂典子氏(石坂産業 代表取締役)

<プレゼンター:大宅 映子選考委員スピーチ>※抜粋

大賞の選考時に、候補者として角野さんのお名前が挙がると、全員一致ですぐに決まりました。そして角 野さんのご経歴を改めて調べる中で、これまでに253冊も出版されていることに驚きました。翻訳だけでも121冊です。しかし、出版された量が多いから、数々の賞を受賞されているから「すごい」ということではありません。子どもたちだけでなく大人も含めたみんなが、角野さんの明るさと、夢と希望を与えてくれる物語から勇気や元気をもらっており、本当に感謝の気持ちでいっぱいです。

私たちから見ると、角野さんは「魔女の宅急便」のような陽気な印象がありますが、初めからハッピーな 人生を歩んでこられたわけではありません。5歳の時にお母様がお亡くなりになり、「トンネルの森」の舞台である1945年の終戦時には、まだ10歳でした。角野さんは当時について「孤独や不安でいっぱいの少女でした」と書かれています。

そんな角野さんがどうやって、みんなに勇気を与えてくれる物語をこんなにもたくさん書くことができた のかを勝手に分析させていただくと、まずお父様の影響があったのだと思います。お父様が膝の上で抱っこしながら、たくさんの本を読み聞かせてくださり、「『桃太郎』の『どんぶらこっこ』というリズムが今でも耳に残っている」そうです。もう1つは、ブラジルに滞在されていたことです。日本という島国を出て、ブラジルの大らかな空気を吸ったことで、角野さんの人生が変わったのではないでしょうか。

どこに向かうのか分からないようなこの世界の中、子どもたちにいい本、いい物語を読ませることで、大 切な「心」を与えてくれる、それが角野さんのお仕事です。そして角野さんは「誰もが魔女になれる」「魔女とは、創造力であり、クリエイティビティやイマジネーションであり、みんなが持っているものだ」と言ってくださっています。

ぜひこれからも、私たちをますます元気にしてくれる物語を、たくさん書いていただきたいです。本当に おめでごとうございます。

<角野氏受賞スピーチ>※抜粋

このたびは素晴らしい賞をいただき、本当に感動しています。選考委員の方々やエイボンの方々、そして たくさんの読者の方々に、心から御礼を言いたいです。

私は本当に自分が好きなことを毎日書いてきただけでした。それも35歳からです。それまでは自分が書く 人になるなんて思ってもいませんでした。ただ「ブラジルにいた」という経験があるだけで頼まれて書き始めましたが、最初は積極的に大喜びで書いたわけではなく、大学の先生に頼まれたから書いただけでした。

ただ、何度も書き直しをしている中で、ふと、本当にドラマティックに「私は書くことが好きなんだ、一生書いていこう」と、思ったんです。しかし、それが本となり、皆さんに読んでいただけるとは全く考えられないような下手なものだったので、ただ黙って一人で7年間も書いていました。次の本が出たのは42歳の時です。好きでなければ続けられなかったかもしれませんが、ただ毎日コツコツと書いていました。それを皆さんに読んでいただけたということは、本当にありがたいと思っています。

私が書いているのは、自分が「楽しい!おもしろい!」と思うものです。そうすると、「読んでくれた方も 楽しいと思ってくれるに違いない!」という、変な信念みたいなものを持っているのですが、読者の方から 時々、「初めて本を終わりまで読むことができました」というお手紙をもらうことがあります。子どもたちは途中でつまらなくなって本を読むのをやめてしまうことがたびたびあり、それがコンプレックスとしてずっと自分の中に残っているようなのです。そんな子どもたちが、本を読み終わったことの誇らしさを私に伝えてくれる手紙を読むと、「良かった」という気持ちになります。

やはり本は、自分が好きで、自由な気持ちで読まないと好きにはなれません。そして本を好きになるため に私の作品を読んでくださったのなら、それでいいのかなと思っています。私の作品を読んで本が好きになり、自分で本を選べるようになって他の作品を読んでいくうちに、その子どもの中に“自分の言葉”というものが積もり積もっていくのではないでしょうか。そしてその子は、その言葉で一生生きていくような気がしています。そのようなことを思いながら、私はこれからも書き続けていきます。

物語とは、そのように読んでもらった時に、その人の中にいささかでも力が芽生えてくるのではないでし ょうか。読み終わった後もその創造力をもって、物語をさらに大きく自分の中に取り入れ、本をどんどん好きになっていく。そして、“自分の言葉”をもって人と話し合い、“自分の言葉”で物を書ける人間になっていくのではないでしょうか。それを信じ、これからもおもしろい物語を書き続けていくことを、この賞への御礼とさせていただきたいです。

【角野栄子氏のプロフィール】

早稲田大学教育学部卒業。1959年にブラジルに移住し、2年間滞在。帰国後、サンパウロの少年を描いた『ル イジンニョ少年、ブラジルをたずねて』(1970年)が処女作。その後、童話や絵本の創作を始める。『わたしのママはしずかさん』(偕成社)、『ズボン船長さんの話』(福音館書店)で路傍の石文学賞。『魔女の宅急便』 (1985年福音館書店)で野間児童文芸賞、小学館文学賞、IBBYオナーリスト文学賞などを受賞。『魔女の宅 急便』は、その後シリーズ化し、2009年10月『魔女の宅急便 その6 それぞれの旅立ち』で完結した。またこの作品は、1989年のアニメ映画、1993年のミュージカル、2014年の実写映画、2016年のロンドンで の舞台、2017年からのミュージカルと数々の形態で親しまれている。

作品はほかにロングセラーの『アッチ、コッチ、ソッチの小さなおばけシリーズ』、自選童話集『角野栄子のちいさなどうわたち(全6巻)』(以上ポプラ社)、エッセイ『ファンタジーが生まれるとき』(岩波書店)、自伝的小説『ラストラン』(角川書店)、『ナーダという名の少女』(角川書店)などがある。

近年の作品としては、2015年の『トンネルの森 1945』(角川書店 2016年度産経児童出版文化賞)、最新刊『キキが出会った人びと〜魔女の宅急便 特別編』『キキとジジ〜魔女の宅急便 特別編その2』(福音館書店)がある。

また、これまでの業績に対して、2000年に紫綬褒章、2011年に巖谷小波文芸賞、2013年には東燃ゼネラル児童文化賞、2014年旭日小綬章、2018年国際アンデルセン賞作家賞を受賞した。