世界最大の化粧品会社ロレアルグループの日本における研究開発部門であるロレアル リサーチ&イノベーション ジャパン(以下、R&Iジャパン)は日光ケミカルズと皮膚常在菌バイオフィルムの洗浄機構に関して共同研究を実施し、研究結果について、2025年9月3~5日に信州大学にて行われた第63回油化学会年会、および9月22~25日に千葉大学にて行われた第76回コロイドおよび界面化学討論会で発表を行った。

細菌などの微生物は、自身が分泌する高分子(多糖類やタンパク質など)で固体の表面にバイオフィルムと呼ばれる強固な構造体を形成する。このバイオフィルムは、アトピー性皮膚炎やにきびを代表とする皮膚疾患の炎症悪化因子となる可能性があり、その除去は皮膚の健康を守るために重要だ。バイオフィルム中には多種多様な微生物が共生しており、バイオフィルムを構成する物質が薬剤の浸透や環境の変化を防いでいるため、微生物を取り除くことは容易ではない。

ロレアルR&Iジャパンと日光ケミカルズのグループは、シリカ基板上に皮膚常在のアクネ菌でバイオフィルムを形成後、基板に平行に洗浄液を流し(せん断流)、水晶振動子マイクロバランス(QCD-M)で残存するバイオフィルムの量を測定した。

機械的作用であるせん断流が無い浸漬だけの場合は、いずれの洗浄液でもバイオフィルムの脱着が起こらなかった。イオン性合成界面活性剤であるドデシル硫酸ナトリウム(SDS)、バイオサーファクタントのラムノリピド(RL)の洗浄液では、せん断流の速度が上がるにつれて洗浄効率が増加し、20ml/sではほぼ完全にバイオフィルムが剥離すること、一方で、非イオン性合成界面活性剤のポリオキシエチレンソルビタンモノドデカノエート(Tween 20)では、流速にかかわらずほとんどバイオフィルムの脱着が起こらないことが分かった(図1)。

これはそれぞれの界面活性剤の構造によるものと考えられ、Tween 20 の非イオン性のエチレンオキサイド鎖に比べて、SDSの硫酸エステル基やRLのカルボン酸基がバイオフィルムの 脱着促進に寄与しているためと考察している。

図1:アクネ菌バイオフィルム除去率に対するせん断力と洗浄液タイプの影響

さらに、皮膚常在菌である黄色ブドウ球菌のバイオフィルムをリン脂質で被覆した基板上に作成し、リン脂質の有無、多寡にかかわらず同等のバイオフィルムが形成されることを確認した。このバイオフィルムをタイプの異なる界面活性剤の溶液で洗浄したところ、リン脂質の被覆率が増加するに従い洗浄効率が高くなることが分かった(図2)。

この結果は、リン脂質被膜がバイオフィルムの洗浄除去促進に有効であることを示唆しており、リン脂質をベースとした新しいスキンケア製品の開発への道を開くものと考えられる。

図2:黄色ブドウ球菌バイオフィルム除去率に対するリン脂質被覆率と洗浄液タイプの影響