コロナ後、初めて香港に足を運んだ。2023年の外国人観光客数は最盛期の半分弱、2500万人まで回復する見込みだという。それでも街を歩くと、往時の賑わいは戻っていない。人種の坩堝で、どこを歩いても誰かと肩がぶつかりそうになる香港が懐かしい。外国人客の数字は戻っても一人当たりの購入金額は下がっている。モノからコトへ、旅のニーズが変わったこともあるが、理由はそれだけではない。多くの高級化粧品はコロナ前に免税店に納品した商品が在庫として残っている。販売期限が迫っているから、免税店は安売りするか、廃棄するかのどちらかを選ぶ。当然、前者を選ぶから、市中で高級化粧品を買う人は少なくなる。また、中国人は自国のビッグセールの割引率が高く、香港市内で買い物しないという。在庫過多、過剰な割引から距離を置くのはシャネルとディオール。ブランド価値を守る姿勢は学ぶべき点が多い。一方、マツキヨ香港は絶好調で、地場の有力ドラッグストアがライバル視する生活者起点の売り場づくりは一見の価値あり。日本市場で活用できるヒントは、いろいろなところに散らばっている。改めて現場を歩く大切さを確認した。

月刊『国際商業』2024年01月号掲載